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東京地方裁判所 昭和47年(ワ)3222号 判決

甲事件原告・乙事件被告 石田良吉

右訴訟代理人弁護士 浅沼澄次

同 溝口節夫

右訴訟復代理人弁護士 杉浦正健

同 湯坐一衛

甲事件被告・乙事件原告 大和住宅生活協同組合

右代表者理事 渡辺潜

右訴訟代理人弁護士 川島仟太郎

主文

一  甲事件原告の請求を棄却する。

二  乙事件被告は、乙事件原告に対し、別紙物件目録記載の物件の引渡しをせよ。

三  訴訟費用は甲事件原告(乙事件被告)の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

(甲事件について)

一  原告

1 被告の昭和四六年五月二五日付総会における「渡辺潜、杉本光市、田中軍治、星野喜三、北川進、小松弘、熊谷義雄、坪田富太郎、佐藤俊光を各理事に、田中勤、三浦継根を各監事に選出する。」旨の決議は存在しないことを確認する。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

との判決

二  被告

主文第一項および第三項と同旨の判決

(乙事件について)

一  原告

主文第二項および第三項と同旨の判決

二  被告

1 原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

との判決

第二当事者の主張

(甲事件について)

一  原告(なお、以下、乙事件についても原告という。)の請求原因

1 被告(なお、以下、乙事件についても被告という。)は、昭和二三年七月九日、組合員に必要な住宅および店舗を建設して供給する事業等を行うことを目的として、消費生活協同組合法に基づいて設立された組合であり、原告は、出資一口をもって被告組合に加入している組合員である。

2 ところで、被告組合は、昭和四六年五月二五日に通常総会(以下、本件総会という。)を開催し、甲事件について原告の求める裁判第1項に記載の決議(以下、本件総会決議という。)をしたとして、同月二八日に理事就任の登記を経由した。

3 しかし、本件総会の開催手続には、次のような重大な瑕疵があったから、本件総会決議は存在しないものというべきである。

(一) 本件総会は、招集権者によって招集されていない。

(二) 被告組合の定款第四四条には、「総会の招集は、会日の少なくとも五日前までに、会議の目的とする事項、日時および場所を書面により組合員に通知して行うものとする。」旨規定されているが、本件総会については、同条所定の招集通知が組合員に対してなされていない。

4 よって、原告は、本件総会決議が存在していないことの確認を求める。

二  請求原因に対する被告の認否

1 請求原因第1項記載の事実のうち、原告が出資一口をもって被告組合に加入している組合員であることは知らない。その余の事実は認める。

2 請求原因第2項記載の事実は認める。

3 請求原因第3項記載の事実のうち、被告組合の定款第四四条に原告主張のとおりの事項が規定されていることは認めるが、同項記載の主張はすべて争う。

三  被告の抗弁

1 本件総会の招集

被告組合における総会の招集権者は、原則として理事長であり、監事が、組合の財産の状況または業務の執行につき不正の点があることを発見した場合において、これを総会に報告するため必要があると認めたときは、監事も招集権者となるところ、本件総会は、理事長の渡辺潜ならびに監事の田中勤および三浦継根によって招集されたものである。

2 本件総会の招集手続

被告組合の定款第四四条の規定は、組合員の氏名・住所を確知することができる通常の場合を前提にしていると解すべきである。そして、被告組合では、組合員の氏名・住所は組合員名簿によってのみ確知することができるところ、原告は、組合員名簿を含む被告組合の帳簿等を後記のとおり不法に所持し、被告組合の再三の返還請求にもかかわらず、その返還をしなかった。ところで、組合員の氏名・住所を確知することができない場合に、どのような方法で総会招集を行うべきかについては、消費生活協同組合法および被告組合の定款に直接の規定はない。そこで、被告組合は、組合に関する基本法である民法第九七条ノ二の規定を類推して、総会招集に関する必要事項を官報に掲載するとともに、組合の掲示場に掲示して、組合員に対する総会招集通知に代えることとし、まず、昭和四六年五月一五日を総会開催日として、その招集に必要な事項を右開催日の七日前に官報に掲載するとともに、組合事務所の掲示板にも右開催日の七日前から一週間掲示した。しかし、右総会は、組合員が一二名しか出席せず、定足数に達しなかったので、不成立となった。そこで、被告組合は、定款第四七条第二項の規定に従い、同月一七日に再度右総会の招集と同様の方法で、同月二五日を開催日とする総会招集手続を実施し、同日に本件総会を開催した。被告組合が実施した本件総会の招集手続は以上のとおりであって、結局、組合員の氏名・住所を確知すべき組合員名簿がないため、組合員の住所にあてて総会招集通知を発送することができない特別の理由がある場合には、右のように公示の方法で総会の招集を行ったとしても、違法ではないというべきである。

四  抗弁に対する原告の認否

1 抗弁第1記載の事実のうち、総会招集権者が被告組合の主張のとおりであり、また、被告組合の監事が田中勤および三浦継根であったことは認めるが、その余の事実は否認する。被告組合の理事長は原告であって、渡辺潜ではなかった。

2 抗弁第2記載の事実のうち、原告が被告組合の組合員名簿を含む帳簿等を所持していることは認めるが、その余の主張は争う。

(乙事件について)

一  被告の請求原因

1 原告は、被告の所有にかかる別紙物件目録記載の物件(以下、本件帳簿等という。)を所持している。

2 よって、被告は、原告に対し、所有権に基づいて本件帳簿等を引き渡すことを求める。

二  請求原因に対する原告の認否

請求原因事実は認める。

三  原告の抗弁

原告は、被告組合の設立の際に理事に選出され、昭和四一年一〇月二二日に理事長に選出されたものであり、被告組合の理事長として本件帳簿等を所持しているものである。

四  抗弁に対する被告の認否

原告がその主張の時に被告組合の理事および理事長に選出されたことは認めるが、その余の主張は争う。

五  被告の再抗弁

1 理事長である原告の招集に基づいて昭和四五年九月二五日に開催された被告組合の理事会において、原告の理事長たる地位を解任する旨の決議がなされたから、原告は被告組合の理事長ではない。

2 仮に右の主張が認められないとしても、原告は、昭和四四年六月一四日の通常総会で理事に就任されたものであるが、被告組合の定款上、理事の任期は二年であり、その満了日がその日の属する事業年度の通常総会の終了の日と異なる場合には、その総会の終了の日までと定められているから(定款第二九条)、原告の理事としての任期は昭和四六年の通常総会の終了の日までとなるところ、同年の通常総会は同年五月二五日に開催され、同総会で後任理事の選出が行われたから、原告は、同日をもって被告組合の理事の地位を失い、したがって、理事の地位にあることを前提とする理事長の地位も当然に失ったものである。

六  再抗弁に対する原告の認否

1 再抗弁第1記載の事実は否認する。

2 再抗弁第2記載の事実のうち、被告組合の定款上理事の任期が被告主張のとおりであることは認めるが、その余の主張は争う。昭和四六年五月二五日の総会は、甲事件の請求原因に記載のとおり不存在であるから、原告は、依然として被告組合の理事および理事長の地位にあるものである。

第三証拠≪省略≫

理由

第一本件総会決議不存在確認請求の当否

一  被告が、昭和二三年七月九日に、組合員に必要な住宅および店舗を建設して供給する事業等を行うことを目的として、消費生活協同組合法に基づいて設立された組合であることは、当事者間に争いがなく、≪証拠省略≫によると、原告は、昭和二六年ごろには出資一口をもって被告組合に加入していた組合員であることが認められ、この認定に反する証拠はない。また、被告組合が、昭和四六年五月二五日に本件総会決議をしたとして、同月二八日に理事就任の登記を経由した事実は、当事者間に争いがない。

二  ところで、消費生活協同組合法は、同法に基づいて設立された組合の総会決議につき、第九六条で、同条所定の事由がある場合に行政庁に対して当該決議の取消しを請求することができる旨規定しているにとどまり、中小企業等協同組合法第五四条のような決議の取消しまたは無効に関する商法の規定を準用する規定をもうけていないが、当該決議が当然に無効もしくは不存在の場合には、その旨を確認することが現在の法律関係に関する紛争の抜本的解決のために必要かつ適切であると認められる限り、訴訟の一般原則に従って、その旨の確認を求める訴えを提起することも許されるものと解するのが相当である。そして、本件では、本件記録に徴して、右のような要件が具備されていると認められるから、本件総会決議不存在確認請求は、適法であるというべきである。

三  そこで、本件総会決議が不存在であるか否かについて判断する。

1  まず、本件総会が招集権者によって招集されたものかどうかを検討する。

(一) 被告組合の総会招集権者が原則として理事長であることは、当事者間に争いがなく、また、原告が被告組合の設立の際に理事に選出され、昭和四一年一〇月二二日の理事会で理事長に選出されたものであることも、後記のとおり当事者間に争いがない。

(二) そして、≪証拠省略≫を総合すると、次の事実を認めることができ(る。)≪証拠判断省略≫すなわち、

被告組合の売主名義でなされた株式会社興人との間の不動産の取引に関し、原告は、被告組合の理事長として、右取引を行った田中英一理事を私文書偽造・同行使等で告訴し、さらに、被告組合は、昭和四五年四月一一日開催の理事会で右田中の理事解任決議をしたとして、その旨の通知を発送した。しかし、原告は、理事長として同年七月二二日に右田中との間で、右の紛争に関して同人が被告組合に示談金を支払うことで和解し、これに基づいて前記の告訴を取り下げた。ところが、他方では、同日付で右田中の理事解任登記が経由されるに至った。そのため、右田中は、同年九月一四日付で、右解任登記をなした法的根拠のほか、原告が被告組合の理事長として受領した前記示談金の処理結果その他の事項について、理事会を開催して審議することを求める旨の催告書を各理事および各監事あてに発送した。そこで、原告は、理事長名で、各理事あてに、「ご要望により左記日時にお集り願い、田中英一に関する件および新座入居者に対する折衝の経過を説明報告したいと存じますので、ご出席下さるようご通知します。」とし、これに続けて日時を同月二五日午後四時、場所を被告組合事務所と指定する文面の通知を発送した。そして、右通知に基づいて、同日の午後四時ごろから、理事である原告、渡辺潜、葉山敏夫、田中軍治および星野喜三のほか、監事の三浦継根が被告組合の事務所に参集し、当初はお互いに雑談をしていたが、しばらくして理事長である原告が「やりましょう。」といったので、まず三浦監事が、原告に対し、同年三月末日に終了した営業年度の決算に関し同年六月二〇日開催の理事会で指摘して補正を求めた会計処理上の問題点について、再度その補正を求め、これをめぐって三浦監事と原告との間で数回応酬がなされた。ところが、その最中に、前記田中英一が姿をあらわしたので、これを見た原告は、右田中に対し、何をしに来たのかと詰問したところ、三浦監事が、本日の会合の主たる議題に関する利害関係者として右田中の意見を直接聞いた方がよいと考え、会合の日時・場所を同人に連絡しておいた旨釈明した。これに対し、原告は、右田中がこの席にいるのでは議事の進行が混乱すると主張して、同人の退席を求めたが、渡辺理事や三浦監事らは、右田中から直接意見を聞こうと主張し、また、右田中も任意に退席しなかったので、原告は、「このような状態では話ができないから、やめにしましょう。」といって席を立ち、原告に同調する葉山理事も退席した。しかし、その場に残った渡辺理事らは、前理事長であった右渡辺理事を議長としてさらに討議を進め、その結果、全員の一致で、原告の組合業務の執行が不当であるとして、原告の理事長たる地位を解任するとともに、改めて理事会を招集して理事長を選出するまでの間、右渡辺を理事長代行と定める旨の決議をした。そのため、渡辺理事長代行は、同年一一月二七日に改めて理事会を招集し、これに基づいて開催された理事会において、出席理事(渡辺潜、田中軍治および星野喜三)全員の一致で、右渡辺を理事長に選出する旨の決議がなされた。そして、その後右渡辺は、被告組合の理事長として、本件総会を招集した。

(三) ところで、原告本人は、右に認定した昭和四五年九月二五日の会合をもって、理事会ではなく、単なる理事の懇談会にすぎないと供述している。そして、成立に争いのない甲第二〇号証および第二二号証の一・二(いずれも理事会招集通知書)によると、右の各通知書は、理事会開催通知という表題が付けられていることが認められるのに、右会合の招集通知である前掲乙第二号証の二の書面には、右のような表題は記載されていないから、右会合は、原告本人の供述のとおり、単なる理事の懇談会にすぎないと考えられないこともない。しかし、前記(二)の認定事実によると、右会合は、田中英一から出された理事会開催の催告を一つの契機として開催されたものというべきであり、しかも、理事長がその地位に基づき、かつ、組合事務所を開催場所と指定してこれを招集しており、また、その目的も被告組合の業務に関する説明報告というのであるから、たとえ右会合の招集通知に前記のような表題が記載されていなかったとしても、その実質は理事会と何ら異ならないというべきであり、したがって、右会合は、被告組合の理事会であったと認めるのが相当である。

また、≪証拠省略≫によると、被告組合の定款では、理事会の定足数は理事の過半数を要すると定められているところ、右理事会開催当時の理事は、その地位に争いのある田中英一を除いたとしても、前記の渡辺潜、葉山敏夫、田中軍治、星野喜三および原告の五名であったと認められるから、前記(二)の認定事実によると、右理事会には理事全員が出席したものというべきである。そして、右理事会は、「やりましょう。」という原告の発言で開会されたものと解すべきであり、したがって、原告および葉山理事は、その後に、「このような状態では話ができないから、やめにしましょう。」といって右理事会から退席したものであるところ、原告は、右理事会で報告討議されることが予定されていた議題の報告討議が終了していない段階で、理事であることについて争いのあった田中英一の入室をとらえて(なお、付言するに、≪証拠省略≫によると、理事を解任する権限は総会だけがこれを有するものと認められるが、右田中については、解任権限を有しない理事会において、同人の理事解任決議がなされたというのであるから、これに基づく解任の効果は発生していないというべきである。)、理事会にはかることなく同人の在席が議事進行の障害になると速断し、同人に退席を求めたが、これが容れられなかったため、「やめにしましょう。」といって自ら退席したのであるから、たとえ原告が理事会の閉会を宣言したつもりであったとしても、理事会は終了していないというべきであり、したがって、原告および葉山理事は、理事会の出席権を途中で放棄して退席したものといわざるをえない。

さらに、前記(二)の認定事実によると、原告および葉山理事が退席しても、理事会の定足数はなお確保されていたものというべきであるから、原告ら退席後の右理事会において、出席理事全員の一致でなされた原告の理事長解任と渡辺潜の理事長代行選出の決議により、原告は、理事長の地位を失ったものといわなければならない。なお、前掲甲第二号証の被告組合の定款では、理事会で「理事長代行」を選出することを認めた規定は見当らないが、≪証拠省略≫によると、原告ら退席後の理事会では、理事長の地位の重要性に鑑み、改めて理事会を開催したうえ理事長を選出し直すことにして、それまでの間暫定的に理事長の職務を行うという趣旨で、「理事長代行」とした事実を認めることができ、この認定事実によると、理事長代行に選出された渡辺潜は、その名称はともかく、実質的には理事長として選出されたものというべきであり、したがって、もともと理事長の選出権限を有する理事会において、右のような趣旨で「理事長代行」の選出決議をしても、無効ではないといわなければならない。

そして、渡辺潜がその後に開催された理事会で理事長に選出され、同人が理事長として本件総会を招集したことは、前記(二)で認定したとおりである。

(四) そうすると、本件総会は、その招集の権限を有する理事長によって招集されたものというべきである。

2  次に、本件総会の招集手続について、本件総会決議の存在を否定する程度の重大な瑕疵があったかどうかを検討する。

(一) 被告組合の定款第四四条に、「総会の招集は、会日の少なくとも五日前までに、会議の目的とする事項、日時および場所を書面により組合員に通知して行うものとする。」旨規定されていることは、当事者間に争いがなく、前掲甲第二号証によると、被告組合の定款第六一条には、「組合員に対してする通知および催告は、組合員名簿に記載したその者の住所に、その者が別に通知または催告を受ける場所を組合に通知したときは、その場所にあてて行う。」旨規定されていることが認められる。ところで、右各規定に基づく総会の招集通知は、定款第四四条所定の事項を記載した書面を、組合員名簿に記載された住所または当該組合員が組合に対して別に通知した場所にあてて、郵送その他の方法で交付もしくは回覧して行う趣旨であると解せられるが、右のような方法で通知をすることができない特別の事情がある場合の通知方法については、消費生活協同組合法および被告組合の定款に何ら規定されていない。しかし、このような場合でも、定款第四四条および第六一条所定の通知方法によることが不可能であるとして総会を招集しないまま放置することは、消費生活協同組合法第三四条が、「理事は、毎事業年度一回通常総会を招集しなければならない。」と規定していることに鑑み、許されないものと解さざるをえない。したがって、右のような特別の事情がある場合には、定款所定の通知方法に代わる他の適当な方法で通知することも許されるものと解するのが相当である。

(二) さて、被告組合が本件総会を招集するに当り、招集通知書を組合員に交付もしくは回覧して通知する方法をとらなかったことは、被告の自認するところである。そこで、さらに、被告組合が本件総会を招集するに当って、定款所定の招集方法をとることができなかった特別の事情の有無について判断する。

(1) ≪証拠省略≫を総合すると、次の事実を認めることができ、この認定に反する証拠はない。すなわち、

被告組合は、前示のとおり昭和四五年一一月二七日に理事会を開催し、理事長に渡辺潜を選出したが、その際に、原告から組合帳簿等の返還を求めることについても話し合われた。しかし、その後原告に対して右帳簿等の返還を明確に請求しないまま昭和四六年三月の事業年度末を経過するに至った。そのため、被告組合は、監査報告および総会開催準備等の必要から、原告に対し、同年四月六日付の内容証明郵便で、原告が保管中の組合員名簿を含む帳簿等をすべて被告組合に返還するように催告した。これに対して、原告は、同月一〇日付の内容証明郵便で、自分が被告組合の理事長であることを理由として、その返還を拒否し、さらに、同月二〇日付内容証明郵便による被告組合の要求に対しても、同月二四日付の内容証明郵便で、その要求には一切応ずることができないと回答して、これを拒絶した。このようにして、結局、被告組合は、原告から組合員名簿の返還を受けることができなかったところ、新しい事業年度に入って総会開催の準備もしなければならないのに、組合員の氏名・住所は原告の所持している組合員名簿によらなければほとんど把握することができないため、組合員に対して総会の招集通知書を送付することが極めて困難な状態であった。そこで、被告組合は、監督官庁である東京都の生活協同組合係の係官に実情を話して、総会の招集を組合員に通知する方法につき意見を聞き、これなどを参考にしたうえ、総会の招集に必要な事項を官報に掲載し、かつ、組合事務所にも掲示する方法をとることにした。そして、被告組合は、まず、同年五月一五日を総会開催日として、その招集に必要な事項を同月八日の官報に掲載するとともに、組合事務所にも同日から一週間掲示した。しかし、右総会は、定足数に達する組合員の出席がなかったので、同月一七日に、右総会の招集方法と同様の方法で、本件総会の招集手続をした。

(2) そこで、右に認定した事実に基づいて検討するに、被告組合では、組合員に対する通知を行うためにその氏名および組合員名簿上の住所等の通知場所を知る方法としては、結局のところ組合員名簿によらざるをえないため、被告組合は、本件総会を招集する前に、組合員名簿を所持している原告に対し、その返還を請求したが、原告の拒絶にあってその返還を受けることができない状態にあったのであるから(なお、弁論の全趣旨に照らすと、訴訟等の手続によってもその早期返還を期待することはできなかったと考えられる。)、本件総会の招集については、前記の定款所定の手続によることができない特別の事情があったものと認めるのが相当である。

(三) ところで、前記(二)の(1)に認定した事実によると、被告組合は、定款所定の招集手続に代わるものとして、官報掲載および組合事務所への掲示による公示の方法を採用しているが、このような方法を採用することも、前掲甲第二号証の定款第六〇条(組合の公告は、組合の掲示場に掲示して行う。)および民法第九七条ノ二の規定の趣旨に照らして不適当であるとはいえないのであり、前記のような事情の下にあっては、やむをえない措置であったと認めるのが相当である。

もっとも、被告組合の設立が前記のとおり昭和二三年七月九日であって、比較的古いことおよび組合そのものの性質からして、特定の組合員については、組合員名簿によらなくても、その氏名および組合員名簿上の住所を知ることも可能であったと考えられないではない。そして、右のようなことが可能である場合には、たとえ組合員名簿がなかったとしても、当該組合員に対しては定款所定の手続に従って招集通知を行うべきであると解するのが相当であるところ、被告組合が定款所定の招集手続を行っていないことは、前示のとおりである。しかし、仮に本件総会の招集につき定款所定の手続によることができる場合があったとしても、それは、前記(二)の(1)の認定事実によると、極めてわずかであるとしか考えられないから、その手続上の瑕疵は、本件総会決議の存在を否定するほどの重大な瑕疵ではないといわなければならない。

(四) そうすると、本件総会の招集手続には、本件総会決議の存在を否定する程度の重大な瑕疵はなかったものというべきである。

3  以上の判示のとおり、原告の主張する本件総会決議の不存在の事由は、結局、すべてこれを認めることができないものといわなければならない。

第二本件帳簿等の引渡請求の当否

本件帳簿等の引渡請求の請求原因事実および原告が被告組合の設立の際に理事に選出され、昭和四一年一〇月二二日に理事長に選出されたものであることは、当事者間に争いがない。しかし、昭和四五年九月二五日に開催された被告組合の理事会において、原告の理事長たる地位を解任する旨の決議がなされ、これによって原告が理事長の地位を失うに至ったことは、先に判示したとおりである。

そうすると、原告は、本件帳簿等を所持する権原を有しないものというべきであるから、被告組合に対し、本件帳簿等を引き渡すべき義務を負うものといわなければならない。

第三結論

よって、原告の被告に対する本件総会決議不存在確認請求は、理由がないから、これを棄却し、被告の原告に対する本件帳簿等の引渡請求は、すべて理由があるから、これを認容することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 平手勇治)

〈以下省略〉

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